4. 病原性に関わる菌の表層物質
菌のどのような産生物が病原性に関わっているのですか?
GAS と SDSE の表層産生物の中で,図-16 に示すMタンパクが病原性と関連して重要です。Mタンパクは菌体から繊維状に伸びる産生物ですが,菌が宿主の上皮細胞へ接着する上で重要な分子です。また,宿主免疫系からの回避機構としての抗オプソニン活性をも有しています。
Mタンパクは, N末端側の非ヘリックス領域からAリピート領域にかけたアミノ酸配列がバラエティーに富む“超可変領域”と,C末側の菌株間で比較的共通したアミノ酸配列が見られる“保存性領域”とからなっています。
emm 型別とは,Mタンパクをコードする emm 遺伝子のうち,“超可変領域”部分の塩基配列 (300~500bp程度) を解析後,米国疾病管理予防センター(CDC) のデータベース(http://www.cdc.gov/ncidod/biotech/strep/strepblast.htm) へデータを送信し,解析データを受け取る仕組みです。現在, GAS のemm 型は120以上,st 番号で表現されるタイプも60以上と極めて多岐にわたっています。
SDSE もMタンパクを保持しています。SDSE であればその結果にはstG やstC 番号が付されて返却されてきますので, GAS と区別できます。
注目すべきは,Mタンパクにはヒト上皮細胞に存在する CD46 への結合に関わる領域,ラミニンやフィブロネクチンを介して上皮細胞のインテグリンに結合する領域等の存在が知られており,病原性を考える上で大変重要です。
GAS と SDSE は近縁のレンサ球菌ですが,病原性に関わる産生物も多く共通していることが,SDSE のゲノム解析結果から新たな知見として明らかにされています (Y. Shimomura et al, BMC Genomics,12:17,2011) (ゲノム解析の項参照)。
GBS ではどのような産生物が病原因子として重要なのですか?
GBS の病原因子として重要なのは莢膜です。この菌はMタンパクは産生しないのです。
従来 GBS の莢膜型別は抗血清を作製して実施されていましたが,ゲノム解析データを基に PCR によって莢膜遺伝子解析を行い,比較的簡単に莢膜型を決定することができるようになりました。
GBS の莢膜型は,Ia,Ib,II , III, IV, V, VI, VII, VIII,IX の10種類に分類されています。図-17 に示すように,莢膜型は莢膜を構成する糖の組み合わせとその結合様式,すなわち多糖リピートユニッ ト(PRUs) の違いによって抗原性が異なるのです。特に新生児由来株においては,莢膜型が非常に重要なのです (図-21参照)。
この研究班では,real-time PCR 法を用いて GBS か否かを判定するとともに,莢膜型別も同時に実施する方法を既に確立しています。