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肺炎球菌

分子疫学解析による世界との比較

肺炎球菌のグローバルな比較はできるのですか?


従来,肺炎球菌のグローバルな疫学研究には,莢膜型別が実施されてきました。

それは,グローバルに使用可能なワクチンの開発には,さまざまな国でどのような莢膜型の菌が分離されているのかを調べる必要があったからです。

図-38は,生方らも日本の情報を提供している小児を対象とした「Pneumococcal Global Serotype Project (Johnson, H. L. ら,PLoS MEDICINE,2010)」の成績です。最も多い莢膜型は14型となっていますが,以前から肺炎を惹起することが多い菌として知られています。肺炎でなおかつ血液から菌が分離されることが多いためと思われます。

地域によってPCV7のカバー率はかなり差があるのですが,PCV13になりますと上位に位置する型はすべて含まれてきます。

Multilocus Sequence Typing (MLST) とはどのような疫学解析手法ですか?

Multilocus Sequence Typing (MLST) とは,菌が生存のために必要とする7種の必須遺伝子(ハウスキーピング遺伝子と呼ばれます)をDNA解析(塩基解析)するものです。その解析データをMLST解析サイトへ送信して,データベースに登録されている情報と照らし合わせ,アレル番号(allele)を取得します。ハウスキーピング遺伝子の多くは,菌の生存に必須の糖代謝に関わる酵素をコードしているため,その遺伝子変異は緩やかな時間で生じると考えられており,そのことを利用します。


図-39に肺炎球菌のMLST解析に使用されている7つの遺伝子とゲノム上の位置を示します。また併せてpbpと莢膜をそれぞれコードする遺伝子の位置も示してあります。

ST(sequence type)番号は,7遺伝子のアレル番号をMLST解析サイトへ入力(アレルプロファイル(allele profile)という)することによって得られます。その仕組みは,送信したアレルプロファイルがデータベース中に登録されているプロファイルと照合され,同一であれば該当するST番号が画面上で得られ,該当するプロファイルがなければ新たなST番号を申請します。

ST番号が既存の登録データと同一であれば,その両者は起源が同じであろうと推定できます。

日本での分離株におけるMLST解析ではどのような成績が得られていますか?


表-6に化膿性髄膜炎由来株の成績の一部を示します。最も分離頻度の高い莢膜6B型を中心に示してありますが,ST90のgPRSPは,1986年にスペインで分離されたPRSPと同じであることが判ります。同じ表に1遺伝子のみが異なったST3387がありますが,この株は韓国において2002年に分離されていたことが判ります。

MLST解析をしますと,このように世界の菌株との関連が明らかになるのですが,肺炎球菌は非常に変異しやすい菌であるために膨大なST(現在,7000近い数となっている)が登録され,多様性が強調されるといった状況になっています。

膨大なSTを近似のSTごとにまとめたのがクロナールコンプレックス(clonal complex:CC)です。例として日本のgPRSPに多いCC156の全体図を図-40に示します。世界的にはST156が多いのですが,私どもの収集株ではST90が多いことが特徴です。

日本の主要な株はどのような国から報告がみられるSTなのでしょうか?

わが国で分離された肺炎球菌において,莢膜型とSTとが同じ株が最初に報告された国はどこなのか,その関係を図-41に示します。

莢膜6B型株でもシンガポール,スペイン,イギリスでSTの異なる株が報告されています.莢膜19F型は台湾,23F型は台湾,スウェーデン,コロンビア,14型はノルウェーで報告されています。今回対象となった菌株は,過去において広く諸外国で分離されていることが判ります。交通網の発達や経済活動の活発化は,ヒトとともに菌の伝播も容易に生じていることを示しています。

市中型重症感染症の制御のためには何が必要でしょうか?

ここでは肺炎球菌について記しましたが,呼吸器系ウイルス感染症を含むさまざまな市中型感染症をコントロールする上では,図-42に示した感染予防が最も重要です。ワクチンのあるものについては,ワクチン接種,そして正しい知識の啓発活動等が挙げられます。発症してしまった症例に対しては,耐性菌が増加している今日,抗菌薬は的確な選択とその適正使用(投与量や投与期間)が求められています。そのためには,先ず正確かつ迅速な原因微生物の検査,全国規模での正確な疫学情報が必要です。

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