HOME > 肺炎球菌:薬剤耐性メカニズム

肺炎球菌

薬剤耐性メカニズム

肺炎球菌はどのような薬剤に耐性化しているのでしょうか?


図-17に示すように,臨床で広く使用されている抗菌薬のうち,先ず i) β-ラクタム系薬(ペニシリン系,セフェム系,カルバペネム系を総称)に対する感受性の低下した菌(ペニシリン耐性肺炎球菌)が問題となっています。その他に ii) マクロライド系薬に耐性を示す菌(マクロライド耐性肺炎球菌),そして iii) ニューキノロン系薬に耐性を示す菌(ニューキノロン耐性肺炎球菌)も出現し始めています。

なぜペニシリン耐性肺炎球菌と呼ばれるのでしょうか?


図-18にはペニシリン耐性肺炎球菌の略号の意味を示します。

β-ラクタム系薬開発のスタートとなったペニシリンの名前を付けてこのように呼ばれていますが,臨床上重要なことは,我が国で多く使われているセフェム系薬もまた感受性を同時に低下させていることです。

MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)がメチシリンという古い薬剤名を付けて呼ばれていますが,セフェム系薬やカルバペネム系薬など多くの薬剤に耐性化していることを意味するのと同じことです。

感性菌はPSSP,軽度耐性菌はPISP,耐性菌はPRSPと略称されています。その他に,マクロライド薬やニューキノロン薬にも同時に耐性を示す菌は多剤耐性肺炎球菌,MDRSPと呼ばれています。

ペニシリン耐性肺炎球菌は感性菌とどのように違うのですか?

肺炎球菌の薬剤耐性化に関わる因子は先の図-17に模式図で示してあります。

β-ラクタム系薬耐性化には,菌の分裂・増殖に関わる細胞壁合成酵素(ペプチドグリカン架橋酵素)の機能的変化が関わっています。この酵素はβ-ラクタム系薬の作用標的であり,薬剤が結合すると細胞壁合成が阻害されます。このため,penicillin-binding protein(PBP)とも呼ばれています。

肺炎球菌には通常6種類のPBPが認められますが,そのうち耐性に関わる主なPBPとして,細胞壁を長軸方向へ伸長化するPBP1A,隔壁合成を行なうPBP2X,そして本菌特有のランセット型形成に関わるPBP2Bの3種類が重要です。


抗菌薬の種類によって差はありますが,カルバペネム系薬やペニシリン系薬は主としてPBP1A,PBP2Bに強く結合して菌を短時間で溶菌,殺菌性を発揮します。セフェム系薬は主にPBP2Xに強く結合し,隔壁合成を阻害することによって抗菌力を発揮します。菌が隔壁なしに伸長化した後,細胞壁の脆弱部位から溶菌しますので,溶菌に至るまでにやや時間を要します(図-29図-30参照)。

PBPのどのようなアミノ酸置換が薬剤耐性化の上で重要なのですか?

図-19には PRSPに見いだされるPBP1A,PBP2X,そしてPBP2Bのアミノ酸配列の模式図を示します。イエローはPSSPのアミノ酸配列と異なったアミノ酸(アミノ酸置換という)が多く認められる領域です。それぞれのPBPをコードしているpbp1apbp2xpbp2b遺伝子に変異が生じているためです。

しかし,見いだされたアミノ酸置換がすべて耐性化に影響しているわけではありません。耐性化に重要なのは,図中に示したセリン(S)を含むSTMK(セリン-トレオニン(T)-メチオニン(M)-リジン(K)),SSN(セリン-セリン-アスパラギン(N)),KTG(リジン-トレオニン-グリシン(G))の保存性アミノ酸配列内の置換,あるいはそれらに隣接するアミノ酸置換が重要であることが明らかにされています。

特に,STMKのSはβ-ラクタム系薬が結合するアミノ酸であるため,隣接するTとMが他のアミノ酸へ置換すると,感受性は明らかに低下します。

耐性菌のPBPにはなぜこのように多数のアミノ酸置換が認められるのですか?


耐性菌のPBPをコードする遺伝子は,”PSSPの遺伝子と口腔内常在レンサ球菌の遺伝子とが遺伝子組換えを起こして形成されたハイブリッド遺伝子“であるからです。

PBP(酵素)を模式化して表しますと図-20のようになります。図-19ではそれぞれの保存性アミノ酸配列は離れていますが,3次元解析ではそれらはPBPの活性中心を囲むように位置していることが明らかにされています。従ってこの部位に位置するアミノ酸が他のアミノ酸 (:トレオニン(T)→アラニン(A))へ置換しますと,PBPの立体構造が変化します。そうしますとβ-ラクタム系薬はセリン(S)へ結合できなくなり,PBPの活性を抑えることができなくなります。菌は薬剤が存在しても細胞壁合成を続けることができ,結果として溶菌に至らず耐性化することになるわけです。

遺伝子解析に基づくgenotypeはどのようにして判定しているのですか?


各PBP上の重要なアミノ酸置換に繋がる遺伝子変異の有無は,PCR法で短時間に検索することができます。そのためのプライマーとプローブの位置は参考までに図-19に,具体的な手法は図-21に示してあります。

私どもによってキット化された試薬には,電気泳動が必要な”ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)遺伝子検出試薬(湧永製薬(株))と蛍光標識されたプローブを使い電気泳動が不要なreal-time PCR法(プライマーは論文参照)とがあり,1-1.5時間で判定できます。

なお,肺炎球菌ではPBP上の変異が多いために,PCRでは感性菌の遺伝子を増幅するようにプライマーが設計されています。なぜかといいますと,耐性菌側の遺伝子を増幅する方法では多数の変異があるために見落しが多くなり,精度が低くなるのです。いずれのPCR法を用いても感度と特異度は95-98%以上です。

なお,遺伝子学的解析結果には,genotype を表わす "g" を付けて gPSSP のように表記しています。またどの遺伝子が変異しているのか判るように,gPISP(pbp2x),gPISP(pbp2b),gPISP(pbp1a+pbp2x), gPISP(pbp2x+pbp2b)と表現します。PBP遺伝子が3つとも変異している場合がgPRSP(pbp1a+pbp2x+pbp2b)となります。

お問い合わせ先

〒108-8641
東京都港区白金5-9-1
北里大学北里生命科学研究所
病原微生物分子疫学研究室
FAX: 03-5791-6386
e-mail: shinko13@lisci.kitasato-u.ac.jp

このページの先頭へ