6. 米国株との比較
GAS について,日本以外の国と比較していますか?
米国では,主要な病原菌による侵襲性感染症の疫学研究が Active Bacterial Core surveillance(ABCs) (http://www.cdc.gov/abcs/index.html)として,1997年から毎年報告されるようになりました。菌種は,i) 肺炎球菌,ii) GAS,iii) GBS,iv) type Bインフルエンザ桿菌(Hib) ,v) 髄膜炎菌,vi) MRSA(2005年~) の6菌種です。
GAS に関する経年的レポートでは常に,emm1 型が突出して多く,症例数も多いのです(http://www.cdc.gov/abcs/reports-findings/survreports/gas10.pdf)。
参考までに,わが国と米国のサーベイランスの比較を 図-22 に示しますが, emm1 型の割合はわが国の方が圧倒的に多く,米国の方がさまざまな型によって発症しています。この差は,生活習慣の違い,人種の多様性等を反映していると思われます。
SDSE でも比較した成績はあるのでしょうか?
欧米の数ヶ国で emm 型別に基づく疫学解析が行なわれ,既に報告されています。図-23 には米国との比較を示します。
米国ではstG6 型が最も多く,次いで stG245 ,stG2078 ,stG643 型となっています。わが国で多い stG6792 型は非常に少ないのです。
SDSE はブタからも分離される菌なのですが,このような違いが食習慣の違いを反映しているのか,人種の影響なのか,今後明らかにしていく必要があります。
GBS の莢膜型の比較成績はあるのでしょうか?
CDC の ABCs サーベイランスによる侵襲性 GBS 感染症の年次報告では,成人も含めた年齢別発生数,人種別発生数に加え,特に新生児での1000人あたりの早発型と遅発型侵襲性感染症の推定発生頻度が明らかにされています。サーベイランスは1996年に「周産期 GBS 感染症予防に関するガイドライン」が発表された翌年の1997年から開始されています。その後,2002年にガイドラインが改定されましたが,予防検査以前は0.6-1.7例/1000人であったものが1997年には0.7/1000人となり,2010年の報告では0.25/1000人と明らかに減少しています。しかし,遅発型はやや減少しているものの,0.3/1000人前後でとどまっています。
経年的な成績をみますと,むしろ成人例が問題で,2010年の成人発症例は1997年に比べ倍増しています。しかも50-64歳と65歳代以上の高齢者がほぼ同数となっており,わが国よりも発症年齢が10歳ほど若い計算になります。
残念ながら米国のサーベイランスでは莢膜型の記載がないため,2007年に報告された大規模な疫学研究 (Smith TC, et al, 2007) の成績とわが国の成績を比較しながら 図-24 に示しましたが,米国株には新生児の早発型で多いとされるIa型が優位で,次いでIII型,V型となっており,III型が圧倒的に多いわが国とは明らかに異なっているようです。成人においても分離菌の莢膜型は異なっています。