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速報(平成24年度・疫学解析)

II. 肺炎球菌

1. 発症例の年齢分布

図-2には,侵襲性肺炎球菌感染症例(Invasive Pneumococcal Diseases:IPD)の年齢分布と疾患の内訳を示します。期間中に送付を受けた肺炎球菌分離症例は,19歳以下の小児が518例,成人が555例でした。成人の比率が高まっているのは,2011年から始まった小児に対する7価コンジュゲートワクチン(PCV7)接種の影響で,小児のIPD感染症が相対的に減少しているためです。

疾患の内訳は,小児では敗血症(菌血症含む)が55.8%と最も多く,次いで化膿性髄膜炎の20.1%,肺炎が10.6%となっていますが,その他に,化膿性関節炎や蜂窩織炎もわずかながら認められています。成人では肺炎(血液からも菌が分離された症例のみ)あるいは肺炎+敗血症と記載されていた症例が46.7%と最も多く,次いで敗血症の25.4%,化膿性髄膜炎の17.1%でした。その他に膿胸等も認められています。このように成人で血液培養陽性の肺炎が多いのは原因菌に特徴があるためで,それについては莢膜型の項で述べています。

2. 小児における肺炎球菌の疫学

1) 予後

小児のIPD例の予後は,死亡1.0%,明らかな後遺症を残した例が1.9%,計2.9%でした。成人例に比して明らかに予後不良が低くなっています。耐性率が高いにも関わらずこのような成績となっている理由を推測しますと,i)乳幼児では急な発熱や全身状態の悪化に家族が気づき,ii)早期受診していること,iii)殺菌性に優れる抗菌薬が使用できること,iv)小児科医を始めとするコメディカルを含めた献身的な働きなどが大きく寄与していることも見逃すことはできません。

2) 薬剤耐性化状況

pbp遺伝子解析 (genotype:g)によるβ-ラクタム系薬耐性と,マクロライド系薬耐性遺伝子の有無に基づく耐性化状況は,図-3に示します。

小児由来株ではgPRSP(pbp1a+pbp2x+pbp2b変異)が49.4%と多く,次いでgPISP(pbp2x)の23.6%,gPISP(pbp1a+pbp2x)の10.8%,等でした。遺伝子変異のない感性菌はわずか11.0%に過ぎませんでした。

マクロライド系薬耐性では,CAMやAZMの高度耐性化(≧32μg/ml)に関わるermB遺伝子保持株が46.5%,次いで中等度耐性化に関わるmefA遺伝子保持株が29.9%,それら両方の耐性遺伝子保持株が18.0%を占め,真の感性株は5.6%しか存在していませんでした。

3) ワクチンカバー率に影響する莢膜型の変化

肺炎球菌は,菌体の最外層に病原性の上で最も重要な莢膜(多糖体)を保持しています。

莢膜型は,現在血清学的に93のタイプが報告されています。莢膜は菌のオプソニン化に関与するヒト補体が菌体表面へ付着することを阻害します。このため,菌はヒト好中球による貪食作用に強い抵抗性を示すことになり,本菌が病原性を発揮する主たる原因となっています。この貪食作用阻害活性の強いのが厚い莢膜を有する3型で,成人の肺炎例に多いのです。

肺炎球菌用7価コンジュゲートワクチン(PCV7)は,世界的疫学研究に基づき,IPD例からの分離頻度の高い7種の莢膜型(4,6B,9V,14,18C,19F,23F)を抗原とし,それに無毒化したジフテリアトキソイドを結合させ,抗原性を高めて乳幼児でも抗体が獲得されやすいように作成されたものです。PCV7に含まれる型をワクチンタイプ(vaccine type: VT),ワクチンに含まれない型は非ワクチンタイプ(non-vaccine type: NVT)と呼ばれます。




図-4にはPCV7と次世代型PCV13に含まれる莢膜型の年次変化について示してあります。2006年はPCV7導入前,2010年はPCV7導入直後でその接種率は10%以下の時期,そして2011年は「ワクチン接種緊急促進事業」によりPCV7の接種率が推定50-60%となった年です。PCV7に含まれる莢膜型株は赤で示す耐性菌が多いのですが,症例の少ない18Cを除き,発症数は明らかに減少していることが判ります。

しかしその反面,図-5に示すNVTの肺炎球菌では増加傾向にある莢膜型株が認められます。特にgPRSPがみられる15Aと,15C,22Fがそれに該当しています。これらは統計学的にも有意に増加傾向にあります。このため,IPD例に対するPCV7のカバー率は70%台から51.6%へと急速に低下しています。同様に,90%近かったPCV13のカバー率も既に70%を下回ってきています。

PCV7導入前の2006年と,接種率が50%を超えたと推定される2011年の分離株の莢膜型について,その相対的増減率を図-6に示します。PCV7に含まれる莢膜型は減少傾向にありますが,NVTは一様に増加傾向にあることが判ります。今後この傾向が強まることが予測され,サーベイランス研究は欠かせないと思います。

4) 発症年齢別,疾患別にみたワクチンカバー率の変化

「ワクチン接種緊急促進事業」では5歳までが対象となっていますが,接種回数が年齢によって異なるためやや複雑です。
図-7には小児の年齢別に集計した症例数の変化と,原因菌をVTとNVTに分けて示します。

「ワクチン接種緊急促進事業」が始まった2011年には,特に矢印で示した2歳以下において,有意にVTによる感染が減少しています。

疾患との関係でも,VTによる化膿性髄膜炎,敗血症,肺炎ともに有意に症例数が減少しており,PCV7接種の効果が得られています。

5) 2012年のワクチンカバー率

図-8には,2012年度6ヶ月間に収集された59株の患者年齢とワクチン接種回数,そして原因菌がVTであったか否かを示します。

注目すべきことに,VTで発症していた13例の小児は,2例を除いてワクチン未接種者でありました。この成績をみますと,PCV7接種の重要性が理解できるかと思います。

3. 成人における肺炎球菌の疫学

1) 予後

成人におけるIPD例の予後は小児とは明らかに異なっています。死亡が21.7%,明らかな後遺症を残した例が8.0%,これらを予後不良例としますと29.7%と高い頻度になります。

予後を疾患別に集計したのが図-9です。死亡例は敗血症や肺炎例で多く,化膿性髄膜炎例では救命しえても重篤な後遺症を残しやすいといえます(p = 0.002)。

死亡に至った症例について,入院後の在院日数と疾患との関係を図-10に示します。 入院1週間以内に急速な転帰をとっているのは敗血症や肺炎であり,化膿性髄膜炎ではないことが注目されます。重症例に対する使用抗菌薬をみますと,CTX,CTRX,あるいはMEPM等が使用されており,選択された抗菌薬が不適切であったとはいえず,むしろ受診のタイミングや宿主側の要因が大きいとも思われます(表-1および表-2参照)。成人では「風邪程度であろう」と自己診断し,市販の風邪薬等を服用して様子をみているうち,数日後に急速に全身状態が悪化して入院する方がみうけられます。

2) 薬剤耐性化状況

図-11は,β-ラクタム系薬耐性とマクロライド耐性化状況です。成人由来株で最も多いのはgPISP(pbp2x)の37.8%,次いでgPRSPの27.0%です。しかし,遺伝子変異のないgPSSPは17.3%と少ない割合でした。

一方,マクロライド系薬耐性では,高度耐性に関わるermB遺伝子保持株が57.1%,mefA遺伝子保持株が24.5%,両方の耐性遺伝子保持株が8.1%と多く,感性菌はわずかに10.3%でした。

3) ワクチンカバー率と莢膜型の関係

成人に対しては既に23価のポリサッカライドワクチン(PPV23)が任意で接種されていますが,その中をさらにPCV7でカバーできるタイプ,PCV13でカバーできるタイプに分けて,図-12に示します。

PPV23のカバー率は現在79.2%ですが,それらに含まれない15A,35B,23A,16F型の中にgPRSPが既に出現しており,今後これらの動向が注目されます。

先に述べたように,成人由来株の莢膜型では,ムコイド・コロニーを形成する3型菌の割合が高いのが特徴です。しかし,その他に22Fや10A,6Cが増えつつあります。PCV7のカバー率は39.2%,PCV13でも66.4%のカバー率です。

図-13には莢膜型と予後との関連を示しますが,ある特定の莢膜型への偏りは認められませんでした。

4) 予後と血液検査値等との関係

成人のIPD例においては予後不良例(死亡+後遺症を残した例)が30%近くに達していることから,予後良好群と予後不良群に分け,入院時の患者背景因子と血液検査値について,どのような因子に有意差があるのかを解析しました。その成績は表-1に示します。

両群間で有意差があり,オッズ比(OR)が大きく,予後不良と関連していたのは,WBCが5,000 cells/ μL未満であることと,クレアチニンが1.5 mg/ dL以上の2項目でした。

その他に,PLTが12×104/ μL未満,CRPが10 mg/dL以上,ASTとALTが50 IU/ L以上,BUNが22 mg/ dL以上,LDHは245 IU/ L以上であることも予後不良と関係している結果でした。疾患では化膿性髄膜炎が予後不良と関連していますが,先に示したように後遺症を残す例が多いことによります。

基礎疾患は80%近い例が保持しているため,両群間に有意差は認められませんでした。

5) 多変量解析による予後関連因子

表-2は,表-1の中で類似した検査項目を除き,どの項目(因子)が予後と最も関連しているのか多変量解析(ロジスティック回帰分析)を行った成績です。

予後不良と最も相関していたのはWBCが5,000cells/ μL未満であることで,ORが6.6倍となっています。つまり,入院時のWBCが5,000cells/ μL未満であれば,それ以上の例に較べ6.6倍予後不良となる確率が高い計算になります。次いで,髄膜炎であることとクレアチニン値が高いという2項目がOR 5.3と5.2で続いています。

その他に男性であること,AST値が高いことも予後不良と関連する因子となっています。つまり,成人のIPD例においては,i) WBC,ii) 腎機能,iii) 疾患名が予後を推定する上で極めて重要な因子であるということになります。

4. 肺炎球菌のまとめ

肺炎球菌の成績について,小児と成人に分け今後の問題点を指摘しておきたいと思います。

a)小児:

2013年4月から,生後2ヶ月の早い時期からPCV7ならびにインフルエンザ菌type b(Hib)の定期接種化が見込まれています。接種率が50-60%と推定された2011年以降2012年までの結果に見られるように,VTによる化膿性髄膜炎や肺炎の発症数は著しく減少すると思います。しかし,2012年以降,NVTの比率が急速に高まってくることは避けられないように思います。

肺炎球菌の莢膜型は93種類もあり,この点がHibやGBSの莢膜との大きな違いです。この莢膜遺伝子が異なる(例えば6Bと14型)肺炎球菌同士が遺伝子組換えを起こす(capsular switching)ことが知られています。そして,肺炎球菌は遺伝子変異を生じやすいということも特徴です。このため,一時的には肺炎球菌感染症が減少しても,数年後には新たな莢膜型による重症感染症が優位になって 問題化するのかも知れません。その注目すべき型が6A,19A,15A,35B,22Fなどとなります。

b)成人:

成人では,団塊の世代と呼ばれる昭和22年生まれが65歳を迎えました。わが国は超高齢化社会を迎えたのです。死亡原因の統計をみても肺炎が再び第三位となっています。解析の中でも述べましたが,重症肺炎球菌感染症例の大半が基礎疾患を抱えています。

もはやこれからは発症してからの治療よりも,発症しないような生活習慣の見直しに関する啓発活動,予防としてのワクチン接種,あるいは重症化しない予防対策等に重点をおかなければならない時代になったということであります。

2015年に関西で開催される第29回日本医学会総会は,「超高齢化社会のための医学・医療の革新をめざして」をキャッチフレーズにしています。その中で,多くの領域で「先制医療」の推進が注目されることと思います。

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