検査
肺炎球菌の検査は通常どのように実施されているのですか?
喀痰,上咽頭ぬぐい液,鼓膜切開液,胸水,髄液,関節液などの検査材料は,ヒツジの血液を含む「血液寒天培地」に塗布し,37℃にて20-24時間,炭酸ガス培養で実施されています。いわゆる培養検査です。
図-8は22時間培養後の血液寒天培地ですが,周囲が暗緑色でややつやのある透明でポチポチとみえるのが肺炎球菌です。これらひとつひとつをコロニーと呼びます。図-8Aは典型的な肺炎球菌のコロニーで,中心部が陥没しているのが特徴です(黄色矢印部分参照)。この陥没は,肺炎球菌が自己融解酵素(オートリジン)を産生しているためで,コロニー中心部の菌から自己融解(溶菌)して死滅していくために生ずる現象です。
図-8Bは同じ肺炎球菌とは思えない程トロリとして粘ったようなコロニーですが,これらはムコイド型コロニーと呼ばれ,莢膜3型菌が圧倒的に多いのです。このような菌株では大量の莢膜が産生されており,先の動画(図-6参照)でも示しましたが,多核白血球に貪食されにくい原因となっています。成人の重症肺炎や小児の急性中耳炎(特に,急性乳様突起炎)からしばしば分離されるタイプです。
肺炎球菌の迅速診断法はないのですか?
成人例では,尿を用いて肺炎球菌の抗原を検出するキット「BinaxNOW® 肺炎球菌」が市販されています。肺炎球菌が原因菌となっている場合,菌の分解産物が尿中に出現するのを捉えます。ただし,このキットは小児には使用できません。先にも述べましたが,小児は上咽頭に肺炎球菌を保菌している場合が多く,感染が成立していなくても陽性反応を示す場合が往々にしてみられるからです。
最も進んだ検索法として,図-9に示すように2時間以内に結果が得られ,しかも感度に優れた「real-time PCR法」があります。現状では一部の研究施設において実施できる方法ですが,化膿性髄膜炎が疑われる症例の髄液,あるいは胸水,関節液,鼓膜切開液などといった平素無菌的な検査材料のみに用いることができます。常在細菌の混入する咽頭ぬぐい液などは,PCR法による検査の対象とはなりません。
また,敗血症が疑われる症例では,通常血流中の菌数は極めて少ないため,採血した血液をカルチャーボトルに入れて増菌培養した後,血液寒天培地に塗布する培養法が実施されます。